2024年6月14日 15時21分 軽井沢蒸留酒製造株式会社

軽井沢蒸留酒製造株式会社は、2019年に創業したウイスキーの製造販売を行うベンチャー企業です。ジャパニーズウイスキーの生誕100周年にあたる2023年6月20日、その第一号蒸留所である小諸蒸留所(長野県)が蒸留を開始。世界中のウイスキーファンが注目する歴史的な日となりました。

本ストーリーでは、蒸留開始からこれまでの1年を振り返りながら、共同創業者兼小諸蒸留所のマスターブレンダーでもあるイアン・チャンの想いや、小諸蒸留所での取り組みなどについてお伝えします。

共同創業者である島岡高志との運命的な出会いで始まった小諸蒸留所の建設。困難を乗り越え、ようやく漕ぎ着けた蒸留開始の瞬間、チャンは決意を新たにした。それは、天国から見守ってくれている師匠との約束でもある。

(竣工式後ビジターセンター1階バーにて、蒸留器を手掛けたForsyths社のRichard Forsyth Sr氏とRichard Forsyth Jr氏と歓談するチャン)

イアン・チャンは、ウイスキー業界において稀代の造り手とも称され、これまでIWSCアジアパシフィック・プロデューサー・オブ・ザ・イヤーやIWSCディスティラー・オブ・ザ・イヤー等に代表される権威ある賞を700近く受賞してきました。

2020年12月、そのチャンが16年間勤めたカバラン(台湾)を辞し、新天地として「小諸を選んだ」という記者発表が報じられると、ウイスキー業界に衝撃が走り、世界中のメディアを賑わせました。

小諸蒸留所の建設には、COVID-19、円安、資材の高騰、物流の遅延など、様々な困難がありましたが、蓋を開けてみると、共同創業者である島岡との奇跡的な出会いからわずか3年余で蒸留所は完成。竣工式を執り行った2日後には蒸留が始まりました。時刻は、2023年6月20日9時35分。この時の胸中を、チャンは次のように語っています。

チャン: (蒸留を開始した時)、わくわくするような興奮を覚えると同時に、責任の重さを感じました。私にとって、これは単なる新しい事業の始まりではなく、故ジム・スワン博士から受け継いだ「レガシー」を次世代につなぐ、新しい歴史の扉を開けた瞬間でもありました。

 

チャンの師匠は、「ウイスキー業界のアインシュタイン」とも称されるジム・スワン博士。世界中の名だたる蒸留所の立ち上げやコンサルティングに関わり、チャンと共に、気候的に難しいといわれた台湾で造るKAVALANウイスキーを、世界的なブランドに押し上げたことでも知られています。

 

10年以上に亘る二人三脚で、チャンとの関係は師弟を超え、父子のように硬い絆で結ばれました。亡くなる直前、スワン博士は「君のやり方で、ウイスキー造りの真髄を、後世に伝えてほしい。」と言い、チャンにバトンを託したのです。チャンは、数多くの選択肢があった中、共同創業者である島岡と出会い、小諸蒸留所を一から立ち上げることになった経緯について、「スワン博士が天国から導いてくれたに違いない」と信じています。

チャン: スワン博士の存在は、ウイスキー業界に多くの革新をもたらしました。「スワン博士の功績を次世代へとつなぐ」蒸留所を一から手がけることができたことは、幸運であると共にとても誇り思います。スワン博士とは、蒸留から熟成に至るまでの全ての過程をとことんまで突き詰めました。STRというワイン樽の再活用する技術も、スワン博士の着想に基づいて共同開発した成果の1つです。

小諸蒸留所では、類稀なる能力を持ちつつも常に挑戦者であり続けたスワン博士に敬意を表し、熟成庫に「ジム・スワン ハウス」と命名しました。「ジム・スワン ハウス」は、小諸の自然環境を最大限活かすことができる熟成装置そのもの。スワン博士のレガシーが細部まで注ぎ込まれているだけでなく、世界中から届いた20種類近くの選りすぐりの樽が並び、時を刻んでいるのです。

小諸蒸留所のウイスキーの出荷開始は2026年の予定。今、提供できるのは熟成途中の原酒だが、チャンの渾身作に、世界中の造り手が驚愕した。

ウイスキー業界のサミットとも称される国際会議に、「ワールド・ウイスキー・フォーラム(“WWF”)」というものがあります。世界的なウイスキーの評論家Dave Broom氏が主管する会議で、世界中の造り手が18カ月ごとに集まり、その時々のテーマに即した蒸留所で開催されます。アジア初開催となった今年2月のテーマは「アジア太平洋における新しいウイスキーのパワーハウス」。チャンの小諸での挑戦を知ったBroom氏が、建設途中の小諸諸蒸留所までわざわざ赴き、開催を決定したのです。

開催期間は3日間。サントリー(山崎・白州。カッコ内は蒸留所名)、ニッカ(余市・宮城峡)、キリン(富士御殿場)、ベンチャーウイスキー(秩父)、ガイアフロー(静岡)など日本の代表的な蒸留所のマスターブレンダー/チーフブレンダーを含め、世界17カ国から100名以上の業界関係者が集結しました。

(2024年2月にホストを務めたWWFにおいて、参加者に小諸蒸留所でのウイスキー製造について説明するチャン。奥はDave Broom氏)

開催初日は、小諸蒸留所についての説明から始まりました。参加者は、小諸蒸留所のビジョン、地方創生の取り組み、製造の進捗などの説明に耳を傾けましたが、一番のハイライトは、なんといってもチャン渾身のニューボーン(熟成途中の原酒)のテイスティングでした。

小諸蒸留所のロゴが入ったグラスに注がれた、琥珀色に輝く4ヶ月熟成のニューボーン。ウイスキーの味を知り尽くしたプロ中のプロ100名にどのように評価されるのか、会場が緊張に包まれ、グラスを配るスタッフの手も震えるほどでした。しかし、一口を口に含んだ瞬間、各々のまゆが上がり、あちらこちらから感嘆の声が響きました。

「これは凄い!」

WWFでのテイスティングは、小諸蒸留所の原酒が、世界にデビューした瞬間でした。世界中の仲間達が、チャンの小諸での挑戦を称賛し、感嘆と共に心からエールを寄せてくれたのです。

 

チャン: 常に挑戦者であり続けたスワン博士の教えを大切に、今後もウイスキー製造の技術を探求し、磨いていきたいと思います。世界中の造り手の仲間達とも協力することで、KOMOROのウイスキーが、品質だけでなく、業界の革新や発展に貢献することができれば嬉しいです。

 

 

3年後に届くボトルの予約販売が売り切れ。そこに込められた「待つ楽しみ」

小諸蒸留所では、WWFの開催を記念したボトルをリリースしました。台湾、東京、小諸という都市それぞれをイメージした3本シリーズで、お届けが3年後となる予約販売でしたが、あっという間に売り切れてしまいました。

(WWFの開催を記念したリミテッドエディションボトル)

さらに驚くのは、各ボトルの特徴を細かく表現するテイスティングノートがあり、ぞれぞれのボトルのキーモルトとなる(なるであろう)ニューボーンのテイスティングをしながら解説をする特別マスタークラスまで開催された、ということです。

これは、「新しい蒸留所であること」、「チャンという世界的な造り手だからこそできること」を突き詰め、これまでにない体験でお客様を楽しませたい、と願う小諸蒸留所のスタッフ達の想いから生まれた企画でした。

スワン博士は、ニューメイク(熟成したての原酒)の味わいだけで、樽と組み合わせることでどのような風味になるのか、8割から9割の確度で予想することができたといいます。チャンも博士に長年鍛えられたおかげで、ニューメイクの段階でも、将来、様々な樽を組み合わせて表現するウイスキーのテイスティングノートを描くことができるのです。これぞ、まさにチャンの真骨頂といえます。

小諸蒸留所では、ボトルの出荷開始までの間も、年に数回、限定ボトルの予約購入ができ、併設のバーでは、チャンがその時々の熟成状況を見ながら絶妙にブレンドするニューボーンを楽しむことができるようになっています。将来のボトルを楽しみにしながら、その熟成過程の原酒も味わうことができる体験 ー これが、小諸蒸留所の想いが結実した「待つ楽しみ」なのです。

ウイスキーの魅力・製造への想いを伝えるビジターセンターを併設

 

「ウイスキーの魅力に出会う特別な体験」というコンセプトは、小諸蒸留所の構想段階からチャンが大切にしてきたものです。 ビジターセンターの開業日には、生産を開始したばかりのニューメイク(熟成したての原酒)を、お客様に振る舞い、チャン自身が、ウイスキー造りへの想いや、小諸蒸留所のハウススタイルなどについて熱っぽく語りました。

チャン: 小諸蒸留所に訪れるお客様には、感謝の気持ちと共に、製造における徹底した品質へのこだわりやクラフトマンシップをお伝えしたいと思っています。

(グランドオープン当日、お越しになったお客様に小諸蒸留所で製造された熟成前のウイスキー原酒「ニューメイク」の説明を行うチャン)

小諸蒸留所は、そのしつらえにもこだわっており、初めて訪れる人を驚かせます。装飾が少なく、決して豪奢な作りではありませんが、のれんのような長い銅の梁を潜ると、目の前にポットスチル(蒸留器)が輝き、日本の美の特徴でもある「簡素でありながらも極上」な空間が広がっているのです。

バーカウンターからは、ガラスの壁越しに蒸留エリアを眺めることができ、クラフトマンのこだわりや情熱を間近に感じることができます。

小諸蒸留所では、蒸留開始1周年を迎えるにあたり、6月20日(木)から土日を含む4日間、期間限定で、ニューボーン2種類とノンピーテットとピーテットのニューメイクの合計4種類が楽しめる特別メニューを提供します。 いわばチャンによる、この1年間の作品集のようなもので、スワン博士のレガシーや、チャンの小諸蒸留所での挑戦を感じてもらえるような内容になっています。

 

この機会に、ぜひ小諸蒸留所に足を運んでみては如何でしょう?

【小諸蒸留所概要】

所在地:〒384-0801 長野県小諸市甲4630-1

代表:島岡高志

HP: https://komorodistillery.com/

ご予約はこちらから:https://komorodistillery.resv.jp/

Instagram: https://www.instagram.com/komoro_distillery/

Facebook: https://www.facebook.com/komorodistillery/

X(旧Twitter): https://twitter.com/komoro_whisky

プロフィール
イアン・チャン
世界最高峰のディスティーラー且つマスターブレンダーの一人。「ウイスキー業界のアインシュタイン」とも称される故ジム・スワン博士に10年以上師事し、これまで製造に携わったウイスキーでは、IWSCグローバル・ディスティラー・オブ・ザ・イヤー、IWSCスピリッツプロデューサー・オブ・ザ・イヤー等に代表される権威ある賞を500以上受賞。母国・台湾でマスターブレンダーとして経験を積んだ後、「今までとは異なる、新しい環境でチャレンジしたい」という想いから、新天地・日本でのウイスキー製造を決意。後進の育成にも力を入れている。
商品・サービス情報
小諸蒸留所
世界屈指のウイスキーの造り手であるイアン・チャンが手がける蒸留所。海外の専門誌が選ぶ「世界の最も行くべき蒸留所」の3選の1つにも選ばれました。併設するビジターセンターでは、オリジナルのテイスティング講座が受けられるKOMORO Academyと、バーを中心に楽しむKOMOROExperienceの2種類のチケットがあり、いずれのチケットでも、約1時間おきに開催している蒸留所内の製造ツアーに参加できます。