2024年6月20日 10時00分 サラヤシキ
サラヤシキはタイ・ベトナムを中心とするアジア食器専門店です。お洒落なファッションが人を魅力的にするように、素敵なお皿は料理の味をグッと引き立ててくれるもの。そんな食器の持つチカラにフォーカスし、自由で独創的なアジア食器を集めたオンラインストアを運営しております。
EC事業をメインとしつつも、仕入れはアナログスタイル。商社を介さず自ら現地に足を運び、ひとつひとつ手に取って吟味し、納得のいくものだけを仕入れています。
この記事ではアジア食器専門店立ち上げに至った経緯、そして新商品開発への想いについて代表の藤井よりお話しさせて頂きます。
好きなものを販売してみたい、その想いに抗えず新天地へ
20代の頃からずっと、私は東南アジアに夢中でした。インド・タイ・ベトナム・マレーシア・カンボジアなどを転々とし、多くの人と出会い、様々な生活文化に触れてきました。蒸し暑く雑然とした雰囲気に、ごった返す人々の熱気。飛び交うクラクションの音。どこからか漂ってくるスパイシーな香り。そのすべてが私を魅了し続け、社会人になってからも毎年のように渡航を繰り返していました。
会社員時代にEC事業に携わったことをきっかけに、いつか自分の好きなものを販売してみたいという想いが年々強くなり、長年興味のあったアジア食器を商材に独立を決意しました。
それぞれの食文化とともに長い歴史を歩んできた食器には、その国でしか生み出せない人々の生活感や息遣いが宿っています。海外製品を自らの手で日本の市場に流通させる、そんなロマン溢れる仕事に憧れを抱きました。
そうしてアジア食器専門店の立ち上げを決意した私は、在庫を保管する倉庫や作業場を確保するため、40年間暮らした大阪を離れ奈良県大和高田市に移住。輸入業の勉強をしながら準備を進め、2023年7月にサラヤシキを立ち上げました。
ひと目見て虜に、歴史あるベトナムの焼き物『バッチャン焼き』との出会い
ベトナム北部ハノイ近郊の小さな村「バッチャン村」で製造される陶器製品「バッチャン焼き」は、本事業立ち上げのきっかけでもあり、当初よりサラヤシキの主力商品として人気を集めてきました。最初は観光のために訪れたバッチャン村でしたが、ひと目見た瞬間から私はこの焼き物の魅力に取りつかれてしまいました。
色鮮やかでダイナミックなデザインには、たった1枚で食卓の雰囲気を変えてしまうだけの力があります。また高温で長時間焼き上げる伝統的な製法により、丈夫で実用性の高い食器として国内外から高い評価を得ています。
日本国内には安土桃山時代に伝来し、当時は「安南焼」と呼ばれ千利休をはじめとする茶人のあいだで人気が高かったと言われています。日本人好みのデザインも多く、菊や蓮の花、トンボ柄など古くから愛される定番模様に加え、近年ではより現代的で自由なデザインのものが次々と生まれています。
立ちはだかる食品衛生法の壁、トラブル続きの国際輸送を乗り越えて
海外製の食器は食品衛生法の規制対象になっており、どんなものでも自由に輸入できるわけではありません。お皿やコップなど食べ物に直接触れるものは、万が一にも健康を損ねる成分が含まれていると大変なことになるからです。
食の安全を守るため、厚生労働省の認可を受けた専門機関でサンプル検査を実施し、その検査証を検疫に提出することが輸入者に義務付けられています。
陶器製品の場合は鉛やカドミウムの溶出試験を受け、基準値内であることを証明する必要があります。検査機関は輸入者自身が選定し、検査用検体の手配や検査料の負担もすべて輸入者の責任で行うため、一般的な雑貨に比べて大幅な手間とコストがかかります。
ただでさえ輸入の「ゆ」の字も知らなかった私にとって、食品衛生法の壁はまさに寝耳に水。当初は現地の販売店で買い付けた食器をそのまま自宅へ発送するつもりでいましたが、それほど単純な話ではありませんでした。
輸入に必要な書類には製造元にしか発行できないものもあり、メーカーの協力は必須。つまり海外の商店に並ぶ食器を仕入れたいと思っても、小売店ではなく直接メーカーに連絡を取り、事情を説明して協力を仰ぐことから始めなければなりません。会社の看板も輸入経験もない私にとって、そのすべてが勉強。まさにゼロからのスタートでした。
初めて現地メーカーを訪れてから最初の商品が到着するまでに要した期間は、およそ半年。僅かなデザイン違いやスペルミスひとつで手続きが止まってしまうのが貿易の世界。何度もトラブルに見舞われながら書類を一枚一枚揃え、はるばる海を渡り、ようやく手元に届いたときの喜びは決して忘れられません。ひと口に個人輸入と言っても、その過程では多くの人の協力が不可欠であることを痛感しました。
もうひとつのベトナム食器『ソンベ焼き』、実用食器として受け継ぎたいという想いで開発へ
何度かの輸入を経て少しずつ慣れてきた頃、かつて同じベトナムで盛んに製造されていた『ソンベ焼き』という焼き物の存在を知りました。ソンベ焼きはベトナム南部のソンベ省(現ビンズオン省)で1950~70年代に製造され、家庭や大衆食堂で幅広く親しまれていました。素朴で美しい手描き模様には、歴史の中で深くかかわってきた中国・フランス両文化の名残りを感じることができます。
しかしそんな名品も時代とともに食卓から姿を消し、プラスチックやメラミン製の食器に置き換わってしまいます。近年ではほとんどの窯元が閉鎖してしまい、現在市場に出回っているソンベ焼きの大半はヴィンテージ食器として販売されています。
前述の通り、食品衛生法では「どこの誰がどんな素材で作ったものか」を明らかにした上で厚生労働省の定めた安全基準をクリアしなければ、食器としての輸入販売が許可されません。つまり製造元が特定できない、あるいは製造元がもう存在しないヴィンテージ食器はあくまで装飾品であり、食べ物を乗せる食器として販売することが認められていないのです。
もちろん歴史的価値のある名品を装飾品として愉しむことも一興ですが、私はやはりショーケースの中ではなく食卓でこのデザインを受け継いでいきたいと考えました。
そこで同じベトナムのバッチャン村の方々に協力を仰ぎ、ソンベ焼きの意匠を受け継いだ新しい実用食器の開発に着手しました。
職人たちの手によって再構築、新しいベトナム食器『ソンチャン焼き』の誕生
バッチャン焼きもソンベ焼きも絵付けはすべて手描き。そのためどうしても絵柄や色味に個体差が生じますが、それも手作りならではの魅力と言えます。デザインによって土の配合や窯の温度を調整し、頭の中の完成イメージと見比べながら何度もトライアンドエラーを繰り返します。
工房には様々な形状の食器や花瓶が並びます。これらはまだ本焼成前の段階で、絵付け後に1,300℃もの高温で24時間焼き続けます。窯の中で大きさや色がどのように変化するのかを予測し、土や釉薬を使い分けます。
こうして試行錯誤を繰り返し、完成した最初のお皿がこちら!ソンベ焼きのデザインを踏襲しつつ、食洗器も電子レンジもOKな実用食器として生まれ変わりました。もちろん食品衛生法の検査にも合格。希少なヴィンテージ食器から普段使いできる実用食器へと進化を遂げ、遠く離れた日本の食卓を彩ります。
ソンベ焼きとバッチャン焼きのハイブリッドとも言えるこの新しい焼き物を『ソンチャン焼き』と呼び、今後サラヤシキのアイコンとして様々なバリエーションを展開していく予定です。既に第2弾の打ち合わせが進み、試作段階に入っています。
簡単な料理も魅力的なひと皿に、サラヤシキが提案する食べる楽しみの再発見
仕事で疲れていても、家事に追われていても、美味しいものを前にした瞬間だけはポジティブな気持ちになれる。そんな日常の中にある小さな悦びを、ほんの少しだけ大きくするのが私たちの仕事です。サッと作ったものをご馳走に変えてしまえるような遊び心溢れる食器をこれからも探し求めていきます。
また現時点ではタイ・ベトナム食器のみですが、今後はインド・マレーシア・台湾などにも仕入れ先を拡大し積極的なラインナップの強化、そして正しい知識・手続きによる食の安全への取り組みにも励んで参ります。
■アジア食器専門店 サラヤシキ
所在地:〒635-0077 奈良県大和高田市池田122
Email:info@sarayashiki.com
Instagram:https://www.instagram.com/sarayashiki_tableware/
X(旧Twitter):https://x.com/Sarayashiki_JP