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うまい団子が食べたい

たれともちもちの食感、いつ食べてもホッとする素朴な味わいーー。

日本人にとって団子はいわば〝味覚のノスタルジー〞。うららかな春の日に、うまい団子を求めて街へ出る。


1.うさぎや(阿佐ヶ谷)

苦難の時代を超えて今に続く母から受け継いだ味と誇り


左上/表面につけた焦げ目に粘度の高いたれがよく絡み、香ばしく甘じょっぱい仕上がりに。左下/朝一番で小豆を煮て作るこしあんはなめらかで上品な甘さ。右/1日に150本作る団子は全て手作り。


JR阿佐ヶ谷駅のすぐ近く、「うさぎや」は70年の歴史を持つ和菓子屋。上野と日本橋にも店があるが暖簾分けではなく、初代の子孫がそれぞれ店を継いで営んでいるのだという。阿佐ヶ谷にある同店は、現在の店主である瀬山妙子さんの母・龍さんが始めた店。戦後間もない昭和25年(1950)に西荻窪で小さな店を開いたのが始まりだ。

当時は砂糖や小豆、米などの確保が困難だったが、本物の材料しか使わないというのが母・龍さんのこだわりだったという。「プライドが高い人だったから、安い人工甘味料もあったけど絶対に砂糖を使っていました。創業時は上生菓子や鹿の子、饅頭を売ってたんですが、それじゃあやってけないよと職人に言われて、団子やどら焼きも売り始めるようになったんです」

開店間際の作業場は慌ただしく動く職人たちの活気であふれていた。うさぎやの団子はもっちりとした食感と大ぶりなサイズ感が特徴。みたらしは飽きの来ない甘さで、表面につけた焦げ目と甘じょっぱいたれのバランスが絶妙だ。あんこに使う小豆は創業以来、仕入れ先は変えず信頼した材料のみを使い続けているという。

店で働いて20年になるという職人の丸山さんは「シンプルなだけに、特にあんこの味は変えないように気をつけています。ほんの少しの味の変化にもお客さんは気付くものですからね」と話す。戦後の混乱期を乗り越え、誇り高く生き抜いてきた和菓子屋の味と伝統、その想いはこの先も続く。


2.松島屋(泉岳寺)

100年続く老舗和菓子屋の真心こもったおもてなし


左・右下/切って、丸めて、串にさす。機械は使わず全て手作業。右上・中/うるち米の粉で作られた生地を蒸籠で蒸して、ほどよい弾力のある固さになるまで臼でつく。


店主が暖簾をかけ終わるか否か、開店と同時に朝一番の客が手作りのその味を求めてやってくる。泉岳寺駅からほど近く、伊皿子坂をのぼり切ったあたりにある「松島屋」は大正7年(1918)に創業、100年以上の歴史を持つ老舗和菓子屋だ。かの昭和天皇も贔屓にしたという豆大福が人気の有名店だが、みたらし団子は知る人ぞ知る名物。

長時間、蒸籠で蒸した生地を、創業時から使い続けている大理石の臼でつき、一つひとつ箸で切って丸める。大きさも不揃いで手間暇かかる作業だが、3代目店主の文屋弘さんは、創業時の作り方を変えずに受け継いでいくことが〝お客様に対する最高のおもてなし〞だと感じているそうだ。

「レシピなんてありませんから、作り方は先代の仕事を見て覚えました。親子3代続けて買いに来てくれるような方もいて、そういう方のおかげで続けて来られたんだと思います。昔ながらの手作りの味をこれからも守り続けていきたいです」

松島屋の団子はみたらし団子のみ。砂糖と醤油だけのシンプルな味だからこそ飽きが来ない甘さに仕上がる。コンロに直接網を置いて、直火でカリッと焼いた団子の香ばしさが食欲をそそる。たっぷりたれを浸けてくれる気前の良さも嬉しい。

店先に飾られている写真にはピースサインで写る優しそうな先代の姿が。「父は恵比寿様のような人でした」と話す弘さんの笑顔もまた、先代に似た優しい面持ちだ。手作りの味と明るい店主の人柄に魅せられて、今日も店には多くの客が訪れる。


3.桃六(京橋)

食欲をそそる生醤油の香り 創業時から変わらぬ味に舌鼓


焼き色と生醤油の香ばしさが食欲をそそる名物「桃太郎だんご」。


明治2年(1872)創業の「桃六」は、京橋の地で150年続く歴史ある和菓子屋だ。名物「桃太郎団子」は、こしあんと醤油だれの2種類。近隣に宮内庁御用達の酒屋があり、鮮度の高い醤油が手に入りやすかったこともあり、みたらしではなく生醤油の焼き団子を売り始めた。

しっかり焼き色をつけた団子に辛めの醤油だれが絡まり、香ばしい香りをまとう。5代目店主・林登美雄さんは、「たれは創業以来、継ぎ足して使っています。この味が好きで来てくださるお客様のために、この先も守っていきたいですね」と話す。

変わりゆく時代の中で、愛され続ける古き良き味わいは、この先も店と共に歴史を刻み続けるだろう。


4.五十鈴(神楽坂)

本来の味わいを生かす徹底した素材へのこだわり


餡まで手作りの団子は、こしあん、ずんだ、みたらしの3種類。


昭和21年(1946)創業の「五十鈴」は、神楽坂の歴史と共に長きにわたって歩んできた街の和菓子屋。現在は、2代目社長・相田茂さんが店の伝統と味を受け継いでいる。40年ほど前から販売しているずんだ団子は、子どもの頃におやつとして食べていた母の味を、茂さんが再現したもの。その素朴で懐かしい味わいを求めて、遠方から買いに来る客も多い。先代からの教えで素材には徹底的にこだわり、生地には自家製粉した粉を使っている。「自分が美味しいと思った味が、お客様に喜んでもらえるのは嬉しいです。店のこだわりが伝わっているのかなと思います」

店先では女将がめいっぱいの笑顔で客を迎える。真摯な姿勢と最高の味、それが同店の魅力に違いない。



※こちらは男の隠れ家2022年4月号より一部抜粋しております