竹富の緩やかな 南風(パイカジ)に吹かれて
八重山諸島の宝石とも喩えたくなる竹富島。南国の自然と赤瓦の民家が織り成す沖縄の原風景を求め〝うつぐみ〞の心に育まれた八重山の美しき小島へ先人から受け継がれる島の営みに心奪われるエメラルド色に燦めく水面を心地良く渡っていくパイカジ(南風)。それに呼応するように白い帆が風をはらんで大きく膨らみ、舟は音も立てずに前へとスッーと進んでいく。舟の下でゆらゆら揺らめく白砂とサンゴ。時に小さな魚影が動くと、その度にわくわくと童心が呼び覚まされる。水平線の彼方に見える西表島の島影を眺めながら、舟は波の静かな珊瑚礁の端まで風に身を任せた。乗っていたのは“サバニ”と呼ばれる琉球の伝統的な木造船。サバニはかつて漁をしたり、島を行き来するための小さな帆船だが、今は八重山ブルーの海を体感できる観光用の舟として復活している。「西表島に自分の田んぼを持っていた私のおじぃも、昔はサバニに乗って農作業に通っていました」。櫂を操りながらそう話す船主の上勢頭輝さん。竹富島は珊瑚礁の隆起によって生まれた島だけに米が作れず、そのため西表島までサバニで通って稲作をした人が少なくなかったという。西表島への通耕は、琉球王朝時代に米での納税を求められたという歴史的背景もあるのだそうだ。そんな話を聞きながらサバニが行き交う昔の風景を想像し、海に漂うひととき。海の透明度は浮遊感ももたらし不思議な心持ちへと誘う。こんな緩やかな気分は久しぶりだ。沖縄県八重山諸島のひとつに数えられ、石垣島の6㎞南に浮かぶ周囲約9㎞の竹富島。先述のように珊瑚礁の隆起で生じた琉球石灰岩からなる平坦地で、遠浅のコンドイ浜や星砂で知られるカイジ浜など、八重山屈指の美しいビーチは訪れる人を魅了。全島が西表石垣国立公園に指定されている。石垣島からは高速船でわずか10分で到着するが、港に降り立った途端、時の流れが一気に穏やかにになるのを覚える。それは島の中心部へ足を運んでも変わることはなく、赤瓦屋根の木造民家と白砂の道、“グック”と呼ばれる琉球石灰岩を組んだ石塀、そこに鮮やかに色を添えるブーゲンビリアやハイビスカスなどの花々が目に眩しい。どこからか響いてきた三線の音色の方を目で追いかけると、グックの間を観光客を乗せた水牛車がゆっくりと通り過ぎていった。古きよき時代の沖縄の原風景が残る集落は、昭和62年(1987)に重要伝統的建造物群保存地区に選定。集落は東集落、西集落、仲筋集落の3つから成り、町並み保存には「竹富島憲章」なる原則がある。「売らない」「汚さない」「乱さない」「壊さない」という島を守る4原則、伝統文化と自然を観光資源に「生かす」を加えた5つの基本理念などが謳われている。その美しい家並みを少し俯瞰して眺めようと赤山公園の展望塔「なごみの塔」そばにある「HaaYa nagomi‒cafe」へ。なごみの塔はかつて竹富島で一番高い展望地だったが現在は老朽化で閉鎖。今はこの2階建てのカフェが眺望スポットとしても人気を集めている。窓辺に広がる赤瓦の家々を眺めながらのカフェタイム。改めて町の美観に心を奪われた。島人が先祖から受け継ぎ守り続けている美しい島は、“うつぐみ”の心、精神性で育まれている。うつぐみとは“協力一致”という意味で、皆で協力することが一番大事ということ。稲作ができないなど土地の生産性の低さ、台風や病虫害などの災いといった自然環境の厳しさがあったからこそ生まれた精神性だとも言われている。そして“うつぐみ”の心が最もひとつになるのが祭礼である。竹富島には数多くの祭事があるが、なかでも毎年秋に行われる「種子取祭」が島最大の祭り。10日間に渡って神に捧げる行事や多彩な芸能が繰り広げられ、島人はもちろん、訪れる島外の人たちとも心を通わせる。それは島全体が自然と人間の調和した劇場となるのだという。そんな祭事に合わせて島を訪れれば、忘れがたい思い出がまた紡がれることになるはずだ。島民として憩う空間星のや竹富島ずっと前からそこに存在していたかのようなもうひとつの〝離島の集落〞。赤瓦の美しい客室棟で、暮らすようにのんびりと過ごす贅沢な島時間。島の伝統をスタイリッシュに味わう大人のリゾート空間そこはまさに竹富島の4つ目の集落。そう錯覚してしまうほど、見事に竹富島の自然の中に溶け込んでいる。島の伝統の家並みで目にしたような赤瓦の家と白砂の道、琉球石灰岩の石塀“グック”、そして咲き誇る色鮮やかな南国の花々と緑濃い木々……。何の違和感もなく、古くからそこに存在している集落に迷い込んだような心持ちだ。実際、「星のや竹富島」のコンセプトは“離島の集落に滞在する”。それはリゾートでありながら島の暮らしを体感する他に類を見ないシチュエーションだろう。「星のや竹富島」の開業は2012年6月。竹富島の東海岸・アイヤル浜近くの約2万坪の広大な敷地を拓き、伝統建築に則った48棟の赤瓦民家の客室を配した。各棟は手積みしたグックで囲まれ、魔除けのための石の衝立(ヒンプン)が各客室の目隠しになっているのも沖縄の家屋を踏襲。赤瓦の上に鎮座するシーサーも表情豊かだ。星のや竹富島の島生活は、港に高速船が着いた時から始まる。日に焼けた笑顔のスタッフに出迎えられ車で施設に移動。レセプションを通って客棟に案内されると、そこはもう我が家のような自由で快適な空間だ。2泊以上からが星のやのお勧め滞在プランだが、暮らすように過ごすならやはりその日数は必要かもしれない。客棟の部屋は全室南向きの開放感のある造り。庭に面した縁側の大きな窓を開け放ち、さらに楕円形のバスタブを設えた裏手の窓を開けると、パイカジ(南風)がさぁーと吹き抜けた。裏手には防風林にも使われるフクギが植えられ、風がかすかに葉を揺らしている。まずは心地良い風を感じながら入浴を楽しむのも一興。いや、その前にプールでひと泳ぎしたり、ラウンジで島の命草茶(島のハーブティー)を味わいないがら読書に耽るのもいいかもしれない。そして、太陽が水平線にその姿を隠す頃、ダイニングはそろそろディナータイムを迎える。“琉球ヌーヴェル”と銘打ったコース料理は、沖縄の食材と島の食文化をフレンチの技で表現した逸品。車エビ、ミーバイ、赤マチなど地元の魚介類もふんだんに登場し、いずれもアーティスティックなひと皿に仕上げられている。料理に合わせるお酒はワインにしようか、泡盛のカクテルにしようか……。チョイスに迷うのもまた、贅沢で幸せな時間だろう。※本記事の内容は雑誌掲載時の情報です。----------------------------------Recommend Contents 詳しくはバナーをクリック↓灯AKARI(キャンドル) 2個セット日本古来の伝統、素材を活かし、桧のおちょこを反転させてロウを流し込んだろうそく。詳しくはバナーをクリック↓ホームロースター機能は生真面目、デザインはクリエイティブな家庭用焙煎機。
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