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男の隠れ家コンテンツ

  • 【3大グルメ企画】 第一章「萬福」編

    【3大グルメ】企画は、日本人が大好きな人気のグルメ「ラーメン」「カレーライス」「ハンバーガー」を提供する飲食店を、料理芸人としてバラエティ番組やラジオ等に出演し、YouTubeでも人気を博している「藤井21」さんが紹介していくコンテンツです。------------------------------------------------------ 町に愛され100年続く中華屋の味  中央区銀座二丁目。銀座駅と築地駅のちょうど中間くらいに位置するこの地は、かつて江戸時代に江戸城の修理を担う木挽(こびき)職人※1が多く住んでいたことから「木挽町」と呼ばれた地域だ。今でも木挽町通りと言う名前が残っているのは当時の名残だ。この銀座木挽町で大正時代に屋台から創業した老舗の中華屋「萬福」は長年多くの人に愛され続けている。  昭和通りから一本路地へ。車通りの少ない路地に入るとすぐ目の前の角地に店が見える。真っ白で清廉な暖簾に白い看板。看板には「中華そば 萬福」の文字。店先には名入りの赤い提灯が下がりメニュー書きがある。いかにも中華屋然としたその店構えを見ているとそれだけでもう腹が減ってくる。 店内に入ると入口のすぐわきの帳場に黒電話が置かれ、天井から下がっているのは白くて丸い可愛らしいペンダントライト、壁には古時計があり、使い込まれた黒い木のテーブルとカウンターにアーチ状の窓にはフリルの白いカーテンがかかっていてテーブルには銀色の水差しが並ぶ。まるで昭和レトロの喫茶店に入ってきてしまったかと錯覚してしまう様な光景だが、卓上に置かれた醤油やお酢等の調味料を見るとやっぱりここは中華屋なんだと思い直す。  メニューには中華そば、ワンタンメン、チャシュウメン(※2)等の麺料理のほかに焼餃子や春巻き、レバーにら炒め等いわゆる町中華では定番の料理が並ぶ。  「僕の子ども頃はメニューも洋食と中華が半々くらいだったんですよ」と店主の久保さんは語る。創業者の祖父が洋食のコック出身だったらしく、西洋料理と支那料理(※3)を合わせて西支(せいし)料理として創業したらしい。そんなメニューも時代の移り変わりとともに色々なメニューが淘汰され無くなっていくなかで最後に残った洋食が「ポークライス」だそう。 「正解の中華そば」 萬福の中華そばはラーメンの正解だ。  縁にぐるりと雷紋が描かれた丼を見るだけで食欲が増してきて今からラーメンを食うぞ!という気持ちが沸き立ってくる。表面にうっすらと油が浮かぶスープは深くて濃い落ち着いた琥珀色のスープ。具材はシンプルに叉焼、しなちく、ほうれん草、なるとそして三角に切った薄い玉子焼きが特徴的だ。スープを一口すするとあっさりしているけど力強い醤油の味がキリッと立っている。醤油味がしっかりするが尖っていない優しい味だ。無駄なものを排除した正統派な味わいに思わずため息がもれる。この醤油味の優しいスープにのどごしの良い細めのちぢれ麺がよく合っていて麺をすする箸も勢いを増していく。そしてお楽しみの叉焼だ。この叉焼が旨い。しっかりと噛みしめるタイプの味の濃い叉焼。今時の柔らかくて口の中でとろける~なんて叉焼なんかに真っ向から反旗を翻して叉焼ってのはこうなんだと言わんばかりの肉感を感じるしっかりと主張してくる叉焼。やっぱり叉焼はこうでなくっちゃ。白地にピンクのうずまき、なるとってラーメンに入ってるとなんだか嬉しくなるんだ。  そうなんだよスープも麺も具材もこれが良いんだよ。子ども頃に伊丹十三監督の映画「たんぽぽ」を見てブラウン管の前で腹を減らしていたあの醤油ラーメンだ。俺はこんな醤油ラーメンが好きなんだ。俺はこれが食べたかったんだ。まるでラーメンの原体験のような味が俺にとっての正解の醤油ラーメンなんだ。飯ってのは自分にとっての正解こそが正しいのだから。   「土曜昼のポークライス」  あの頃の土曜の昼めしが脳裏をよぎる。  老舗の中華屋に唯一残った西洋料理は他では見た事ない「ポークライス」だ。   濃いオレンジ色でつやつやと光る米に粗めに刻んだ玉ねぎと角切りの肉がたっぷりと入っている、上に散らしたグリーンピースの緑も映える。そして甘酸っぱいケチャップの良い香りがふわっと漂ってくる。これは見た目と匂いですでに疑う余地もなく旨いのは確定だ。 一口食べた途端に食感と香りが口の中を支配する。炒めたケチャップの甘くてやさしい酸味が口の中にふわっと広がり口の中いっぱいにかきこみたい欲求にかられる。玉ねぎはシャキシャキとした食感を残してほんのり甘く、ここは中華屋だと主張する肉感ある角切りの叉焼もまた旨い。中華鍋で作るからだろうかほんのりと香ばしさも感じる。  そうだ…これはあの頃の土曜昼のごちそうだ。  土曜日学校が終わって半ドンで帰ってくると食卓に鎮座していたチキンライス。  オムライスじゃなくてチキンライスが定番だった。母親が作るあのケチャップ味のチキンライスが無性に好きだった。あの頃の土曜の昼に急に口の中の景色が巻き戻される。これはどうあがいたって懐かしい味だ。  「男の子ってケチャップ味が好きでしょ」そう語る店主の久保さん。ポークライスは懐かしさも一緒に食べている。きっと土曜昼のケチャップ味好きな同士が多いから必然的にこのポークライスだけがメニューに残ったんだろう。ふと思い出してたまに食べたくなる味、うちは常連さんが多いですねと語るのも納得だ。  「中華そばとポークライスの名コンビ」   「ある材料で出来る料理」中華屋にある材料で作る洋食は具材も同じだからどこか味にも共通する要素があるのかもしれない。  ケチャップ味のポークライスをスプーンで頬張り、ラーメンのスープをレンゲですする。そんなの口の中で味が渋滞しちまうだろうと思われるだろが、このコンビネーションが不思議とマッチする。炭水化物と炭水化物、似ても似つかない中華と洋食。おそらく萬福以外では出会うことはない二つの料理が今目の前で共演している。そしてこのふたつの味わいが見事に調和している。正解の醤油ラーメンとあの頃の土曜昼のポークライス、こんなコンビはおそらく萬福でしか生み出せないコンビだろう。  米の一粒も残さずスープも最後の一滴まで飲んで心も体も満ち足りてまさに「俺は‟萬福”じゃ!」とふと卓上に置かれたドリンクメニューを見ると「瓶ビール」の文字が。 あぁ…ここの料理で瓶ビールなんて呑めたら最高じゃないか。  白い暖簾をくぐり店を後にする。  次来た時には瓶ビールと焼餃子それに〆にワンタンメンだな。また銀座に来る楽しみが増えちゃったな。そう思いながら銀座の街を帰路に就く。  ※1:木材を加工して板材や柱材に加工する職人  ※2:メニュー準拠  ※3:中華料理 ------------------------------------------------------「藤井21プロフィール」 埼玉県東松山市出身で同市の観光親善大使「東松山市應援団 」にも任命されている。  実家は酒販店で学生時代から15年以上続けた飲食店勤務の経験を活かし、料理芸人としてバラエティ番組やラジオ等に出演し、レシピサイトクックパッドには自信が考案した1900以上のレシピを公開している。  またYoutube「藤井21チャンネル」では趣味の呑み歩き動画や旅画を投稿し2万3千人のチャンネル登録者がいる。  そして2025年より唎酒師を運営する団体SSI日本酒サービス研究会に就職し“兼業サラリーマン”として働いている。  料理芸人、Youtuber、観光親善大使、会社員とマルチに活躍する。

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