住まいに生かす「金沢」の伝統
長い歴史に培われた伝統が今も暮らしの中に息づく町、金沢。この町は、住まい造りを考えるうえで重要な示唆を与えてくれる。暮らしの中に「金沢」を取り入れることで、人生はより豊かに、奥行きの深いものになるはずだ。和田屋 わたや石川県白山市三宮町イ55-2現代に受け継がれる古き良き伝統を求め「金沢」の町を訪ね歩くーー金沢に残る伝統建築昔懐かしい風情に心和む座敷の奥には囲炉裏が切ってあり、女将が食事の支度を始めた。ここは炭火で焼き上げた川魚が名物だ。金沢市内から少し離れた山際にある純和風の一軒宿。昔懐かしい風情に心が和む。金沢はその長い歴史の中で、日本古来の文化を藩政時代の加賀・前田家が引き継ぎ、独自の文化を大きく発展させた。その中で伝統的な建築もまた、大切に受け継がれてきたのである。町の中心部にある金沢城(跡)は、当時の技術の粋を集めた木造建築の代表格である。再建された五十間長屋の骨太な無垢材の木組みは、見る者を圧倒する。城下に目を移そう。土塀を巡らた町並みは武家屋敷の跡で、誇り高く質実剛健な前田家臣団の気質を今に伝える。茶屋街には趣のある木造2階建ての茶屋建築が建ち並んでいる。往年の面影を残すこの町並みは国の伝統的建造物群保存地区(ひがし茶屋街および主計町茶屋街)の指定を受けるほど歴史的な価値をもつものだ。伝統的な建築には、近代建築では味わえない情趣がある。金沢にはこうした伝統的な建築を大切にする古き良き文化が息づいている。往時の隆盛を偲びつつ町を歩けば、旅もまた楽しくなる。金沢城・五十間長屋石川県金沢市丸の内1-13 層 3 階の菱櫓と橋爪門続櫓(つづきやぐら)をつなぐ 2 層 2 階の五十間長屋は、平時武器などを保管する倉庫だが、戦時は防壁として機能し、白塗漆喰壁(しっくいかべ)や海鼠壁(なまこかべ)の強固な防火構造をもつ。日本古来の柱と梁(はり)・桁をもつ「木造軸組工法」で建てられ、2 階では骨太な木組みをそのまま見ることができる。鉄くぎやボルトを一切使わず、土塀と貫(ぬき)と呼ばれる柱と柱をつなぐ横木を組み合わせた「耐力壁」は、極めて丈夫な構造だ。松風閣石川県金沢市本多町3-2-1※一般非公開天保 5 年(1834)、十二代藩主・前田斉広(なりなが)の娘・寿々姫が、家臣の本多家九代・政和に輿入れした際に、本多家上屋敷に建築された御広式御対面所。明治期になって当地(北陸放送敷地内)に移築された。当時の武家文化を偲ぶ遺構として、国登録有形文化財に指定されている。現在は茶会など伝統的な行事に限って利用される。お宅訪問こだわり抜いた自分だけの家住まいに「金沢」を取り入れるなぜ住まいに「金沢」を取り入れるのか。「金沢」は暮らしをどう変えるのか。金沢で生まれた株式会社 ひまわりほーむの「金沢兼六の家」にそのヒントがある。実際に「金沢兼六の家」に住まう人を訪ね、そのこだわりを聞いた。木の温もりと過ごす家高下伊三美さん( 56)・珠子さん( 57)夫妻開放的な吹き抜け空間は骨太な無垢材が自慢「木の温もりのある家は気持ちが和みますね」と高下さん夫妻は話す。今年2月に完成したこの家には、ふたりのこだわりがたっぷり詰まっている。間取りを決めるのに1年以上かけ、その間に何度も図面を引き直してもらった。玄関を入り、短い階段を上がると広いリビングルームに出る。いわゆるスキップフロアで、階段の途中に中2階を設けて広いリビングルームとしている。これは1階中心に暮らすお母さんと、2階にある珠子さんの居室(寝室)とのコミュニケーションを取りやすくするのが大きな目的だという。リビングは開放的な吹き抜けになっていて、構造材としての梁や柱がそのまま露出している。驚くほどに骨太で頼もしい無垢材だ。金沢城の五十間長屋で見たそれとイメージが重なる。太い梁は厚さ40㎝ほどもあるという。そして頭上空間だけなく、床のフローリングにも無垢材が使われている。こうして木の温もりに包まれていると、まるで森の中にいるように心が落ち着いてくるから不思議。まさに伊三美さんの言う通りだった。興味深かったのは伊三美さんの部屋だ。いや、正確には部屋ではなく小屋裏なのだが。小屋裏は高さ1・4 m 以下という制約があるため、まるで子供の秘密基地のようなスペースだ。決して広くはないが、その狭さがかえって心落ち着く空間なのである。未来志向の住まいと和の美意識長谷和人さん( 26)・絵里花さん( 26)夫妻部にまで家族の思いが行き渡る家造り長谷さん夫妻がこの家を建てたのは2年前のこと。結婚と同時に移り住んだ。金沢市郊外の高台に建つ家は、窓を広く取って吹き抜けとした明るいリビングが特徴。木々の緑を眺めることができる開放的な空間だ。天気が良ければデッキに出て過ごしたり、気の置けない仲間と庭先でバーベキューを楽しむこともあるという。注文住宅は一般的に設計担当者との打ち合わせによって家造りを進めていくものだ。こだわりの強い人であれば、打ち合わせには多くの時間を要するだろうが、多くの人はほぼここまで。後は現場にお任せとなる、のだが……。人一倍こだわりが強い長谷さん夫妻の場合、建築現場に足しげく通い、時には大工の棟梁とも話し合い、自分の家が出来上がるのを見届けた。「おかげで和室の天井を高くしてもらったり、絵本の棚を作ってもらうことができたんです」と和人さん。こうした対応は工業化された住宅ではなかなかできないこと。自分のこだわりを実現してくれたことが「金沢兼六の家」を頼んで良かったことだと、うれしそうに語ってくれた。この家で家族の歴史が刻まれていく。長年の思いを実現した夢の家徳田幸三さん( 67)・恵美子さん( 68)夫妻快適な住環境を実現しライフワークに没頭能登出身の徳田幸三さんにとって、木組みの家は幼い頃からなじみが深かった。家を建て替えるにあたって「金沢兼六の家」を選んだのも、骨太の無垢材を使った頑丈な家造りに共感を覚えたからだ。この家の一番のお気に入りは、能登杉の梁が見える寝室。この梁は家を建てる際にわざわざ能登材の産地である輪島まで足を運び、納得できるものを選んできたという。柱に使われている能登ヒバも、自身の目で見て確かめた。さて、徳田さん夫妻がこの家に移り住んだ時、「どんなに荒天でも、家の中で過ごしていると外の陽気を忘れてしまうほど快適」で驚いたという。金沢の気候をひと言で表現するなら、夏は暑く冬は寒い。ご当地生まれの「金沢兼六の家」は、厳しい自然環境に向き合う家造りを提唱してきた。これは近年いわれる省エネルギー住宅に通じる考え方でもある。遮音や断熱に優れていることは、これからの住まいにとっても重要な要素になるだろう。快適な環境の中に、幸三さんは長年の夢だった書斎を設けた。書庫にはこれまで読んだ本がずらり。蔵書は優に千冊を超えるだろう。静かな書斎で幸三さんは、真実を探る読書の旅を続けている。※本記事の内容は雑誌掲載時の情報です。----------------------------------Recommend Contents 詳しくはバナーをクリック↓伊賀焼 「いぶしぎん」 全2種作り手は真の使い手であれ!という精神の元作られた「いぶしぎん」のおうちで楽しむ燻製土鍋。約30分で本格燻製の出来上がり。伊賀焼の伝統を守りながら現代のライフスタイルでもお使い頂ける商品を提供しています。詳しくはバナーをクリック↓ホームロースター機能は生真面目、デザインはクリエイティブな家庭用焙煎機。
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