すぎうらでんそう|建築家1983年にアーツ&クラフツ建築研究所を設立。2013年「ミニ書斎を作ろう」(メディアファクトリー新書)を著す。10年ほど前から、木の魅力に取りつかれ、今は工房を作り本業の建築設計の傍ら、木工に夢中になっている。住宅の設計を始めて40年になりますが、その仕事を通して多くの家族に住まいについて話を聞いてきました。共通して言えるのは、依頼主はだいたい30代後半から50代前半の共働きのご夫婦ということ。そして設計打ち合せでは奥様が主導権を握ってプランの決定や物の選択が決まることが多いこと。つまりそれは奥様が働いていても、家に帰ればやはり奥様を中心に家事の采配が行われている証しだと思います。キッチンやダイニング、そして水回りも女性の目線が活かされてプランが決まります。次に子どもの部屋、夫婦の寝室と、そのような優先順でいくとご主人の部屋などは望みどおりにはなかなかいきません。 従って、だいたい奥様の居場所はリビング、ダイニング、キッチンといった家の中心の広い所が多くなり、いわば管制塔のような、家の中の見晴らしの良い所に居ることになります。 では、ご主人はどうかというと、家の中で特定の居場所がなく、あえて言うならばリビングのテレビ前のソファーに居ることが多くなり、せっかくの休日も、ずっとテレビの前……。それでは家族の見る目も冷ややかになってしまうのではないでしょうか。少し極端な言い方になりましたが、あながち間違いとはいえない話です。 もちろん時代による変化はあれど、現在は老若男女かかわらず、居場所を探している人が多いと思います。 私の住宅設計で体験的に分かったことがあります。それは「住宅にとって広さはそれほど重要ではない」ということです。大事なのはあくまで居心地の良さです。もちろん「大は小を兼ねる」は紛れもない事実ですが、工夫次第で、例え狭くても居心地の良い家は造れます。工夫するからそれがまた楽しくなり、結果、居心地の良さにつながるのです。そしてもうひとつ大事なことですが、それは、「家で何かを楽しんでほしい」ということなのです。これは家で居場所を見つけられない多くの人の『狭くてもいいから自分の書斎が欲しい』という要望と重なります。とはいえ、我が国の都市部の住宅事情を考えると、もうひと部屋用意するのはなかなか難しく、優先順位が下がってしまうのも事実です。そして、自分の書斎などというものは諦めてしまっているのか、趣味を尋ねてもなかなか思い浮かばない人も多い。 では、こうした人たちは自宅に居場所がなくなってしまうのは仕方がないことなのでしょうか。いえ、そんなことはありません。ぜひ勇気と自信を持って自分の好きなことに打ち込めるスペースを設けてみましょう。そこで私はミニ書斎を提案します。ミニ書斎とはその人の趣味を思い切り楽しむための小さな空間です。普通に考えれば3畳以下、場合によっては1畳分くらいの広さしか取れないかもしれません。しかし、色々と工夫次第で快適になり、逆に狭いからこそ「お篭り感」が得られ、趣味に没頭できるようになります。趣味に没頭できる喜びが家族に伝われば、家全体が明るくなり楽しい空間になるはずです。また、2年前から新型コロナウイルスのパンデミックにみまわれ、我々の日常生活も変えざるを得なくなり、特にテレワークという今までにない働き方を余儀無くされ、戸惑いを感じた人は多いでしょう。しかしこれを反対にチャンスと捉えてミニ書斎を造れば、ご主人の居場所ができるだけでなく、働いている姿や、どんな仕事をしているのか、ご家族が垣間見ることも出来ます。これはまさに一石二鳥! 初めのご主人の話に戻れば、このように家で楽しんでいる姿、黙々と仕事に打ち込んでいる姿を見せれば、奥様もきっと見直すでしょう。何より本人はストレス解消できるし、行動的にもなります。そのミニ書斎造りに最低限必要なのは、以下の3つと考えます。①家族の同意が必須②場所の選び方と空間の確保③三種の神器ともいうべき机、椅子、書棚のセッティングです。そして、家族の視線、動線や光の加減を考え、それらを配置しなければなりません。次に自分の好きな物を厳選して書棚や机の周りに置くことで「自分の城」となり、不思議と自信のようなものも出てきます。 ミニ書斎は造って終わりではなく、人の変化と共に書斎も充実していくことは間違いありません。まさに人生の相棒、年々深化する趣味を受け止め、やりたいことに合わせて共に成長し、自分もミニ書斎も深化していくことになります。あくまで当面の目標であり、最終目標は自分も仕事や趣味、そして人生を充実させ、家族全員が幸せな毎日を送れることなのです。 そうなって初めてミニ書斎はその機能を果たし、ミニという名前がついているものの、この空間の果たすべき役割は決して小さくないのだと気付くでしょう。※こちらは男の隠れ家2022年3月号より一部抜粋しております※記事コンテンツ以外は2023年2月27日プレオープン予定となります※他ページへの遷移はプレオープン日までできかねますため、予めご了承いただければと思います
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